科学技術論文の書き方
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参考文献の引用・参照

参考文献にできるもの

引用するかしないか

書籍などの体裁が整っていても, 例えばあるアルゴリズムの実装に C を使用したからといって, Cの勉強に用いた K&R を引用する必要はない. その理由は,その論文の本質が C を使用したことではなく,C で実装したアルゴリズムにあるであろうからである. あるいは,Pascal で実装しても,同じ結果となったはずである,と考えても良い. 逆に,もし K&R C を改良したとか,C そのものを研究対象としている場合は K&R を引用する必要があろう.

引用対象の選定

研究にあたって「実際に参考にした」ものでも,論文で参考文献として引用,リストできるものとできないものがある. 参考文献とすることができる対象は原則として「公刊されたもの」であり, 正規の手続き (購入,図書館での閲覧など) を経れば誰でもアクセスできるもの,ということができよう.

問題なく引用可能

書籍,雑誌が学術論文での引用対象の原則である. ただし,書籍・雑誌にもピンキリがあり,自家出版やグループ内の雑誌のようなものまで含めてよいか迷うだろう.
  • ISBN (International Standard Bibliographic Number) 国際標準図書番号
  • ISSN (International Standard Serial Number) 国際標準逐次刊行物番号
が付与されている書籍 (ISBN) または雑誌 (ISSN)と考えれば確実である.

可能性のある対象

また,ISBN, ISSN が付与されていなくても, 参考文献として引用できる可能性があるものに以下があるが, あくまでも可能性であり,できるだけ避けよう.
  • ISSNまたはISBNが付与されていない学術雑誌
    原著論文の媒体として問題があるが,有名論文誌でも稀に存在する.
  • 学会予稿集
    1, 2ページのものであり,テンポラリな報告媒体である.
  • 学位論文
    修士論文,卒業論文はアクセス困難なものが多いため,避けること.博士論文も好ましくはない.
  • Web サイト
    可能な限り避けること.別項参照.
  • 私信
    誰でもアクセスできる私信なんてあるのか.
もし文献検索をしていて学会予稿集が見つかったら, それを引用する前にその研究を発展させたであろう原著論文を探そう. また,国際会議でも同様で,それを引用する前にその研究を掲載した原著論文を探そう. 学位論文,特に博士論文の場合はもととなる要素研究が原著論文となっていることが多いのでそれを探すこと. 普通は学位論文にはそれが明記されている.

未掲載の論文等

どうもフライングする人が多いが,原則として禁止である. これが問題となるのは主として同一著者あるいは同一グループの論文であろう. まだ掲載されていない先行する論文 (被引用論文) を今から書こうとしている論文 (引用側論文) に参考文献として引用したいと思うことがあるだろう. このとき,被引用論文の状態により次のように対応するべきである.
  1. 掲載・発行済み:
      問題なく引用可能である.
  2. 採録済みだが未掲載・印刷中:
      引用は極力避ける.引用側論文が学位論文などの場合は仕方ない.
  3. 条件付採録:
      引用は絶対禁止.条件付採録は採録ではない! (Coffee Break: 査読とは 参照)
  4. 投稿後で査読中:
      引用は絶対禁止.
  5. 投稿準備中:
      問題外.
実は,本文筆者自身も自分の博士学位論文には未掲載の採録済論文を引用しているが課程博士の場合はタイムリミット,あるいは掲載時期と学位請求にタイムラグがあるので必要なのである. 一方,信じられないようだが (3), (4), (5) の状態にある論文の引用や二次利用は分野によっては存在する. その分野の査読体制,学術に対する常識を疑う. 博士学位のための雑誌論文でも採録決定済は良しとしても投稿中はカウントに含めないであろう. 学会というより分野であるが,研究グループで常態化していることもある (W大学某I先生!恥ずかしいからやめようよ!). これを許す指導教官の指導は早いうちに辞退した方が身のためである.

身内の論文の引用

私はある程度は仕方ないという立場だが,論文誌によってはこれを極度に嫌うので注意したい. 自分の論文を引用する場合でも,著者を隠蔽することをルールとする論文誌の場合は当然,第三人称で引用する必要がある.

進行中の研究は世界のどこかで似たようなことをしているものである. そのような「拮抗状態」下で手前味噌的に参考文献欄にその引用側論文の著者あるいは同一グループの論文のみが並ぶのは傍から見ていて感心できるものではない. しかし,連作的な研究とか,その大テーマでは独走態勢にあるような研究では仕方ないと思う. もちろん,参考文献の全てが身内の論文のみであった,などという事態は言語道断である. 実際,本文著者も,CGの分野で仮想彫刻から仮想版画に至るシリーズ的研究を展開しているが, 世界的に独走態勢,他者の追随を許さない状態であるために自らの論文を並べざるを得なかった (下記リスト.他に日本語論文も数本ある). もちろん身内の論文のみではなく関連論文はきちんと引用した.

  1. Y-T. Chen, X. Han, M. Okada and Y. Chen: "Integrative 3D Modelling of Complex Carving Surface", Computer-Aided Design (Elsevier), Vol. 40, Issue 1, pp. 123-132 (Jan., 2008)
  2. D. Tasaki, M. Katou, S. Mizuno and M. Okada: "Physical Model to Achieve Virtual Mezzotint", IPSJ Journal, Vol. 48, No. 5, pp. 2012-2022 (May 2007)
  3. S. Mizuno, D. Kobayashi, M. Okada, J. Toriwaki and S. Yamamoto: "Creating a Virtual Wooden Sculpture and a Woodblock Print with a Pressure Sensitive Pen and a Tablet", FORMA - J. of Society for Science on Form, Vol. 21, No. 1, pp. 49-65 (2006)
  4. D. Tasaki, S. Mizuno and M. Okada: "Virtual Drypoint by a Model-driven Strategy", Computer Graphics Forum: J. of the European Association for Computer Graphics, Vol. 23, No. 3, pp. 431-440 (Aug. 2004)
  5. S. Mizuno, M. Okada, S. Yamamoto and J. Toriwaki: "Japanese Traditional Printing 'Ukiyo-e' in a Virtual Space", FORMA, Vol. 16, No. 3, pp. 233-239 (Dec. 2001)
  6. S. Mizuno, A. Kasaura, T. Okouchi, S. Yamamoto, M. Okada and J. Toriwaki: "Automatic Generation of Virtual Woodblocks and Multicolor Woodblock Printing", Computer Graphics Forum: J. of the European Association for Computer Graphics, Vol. 19, No. 3, pp. C51-C58, C521 (Aug. 2000)
  7. S. Mizuno, M. Okada and J. Toriwaki: "Virtual Sculpting and Virtual Woodblock Printing as a Tool for Enjoying Creation of 3D Shapes", FORMA, Vol. 15, No. 1, pp. 29-39 (May 2000)
  8. S. Mizuno, M. Okada and J. Toriwaki: "An Interactive Designing System with Virtual Sculpting and Virtual Woodcut Printing", Computer Graphics Forum: J. of the European Association for Computer Graphics, Vol. 18, No. 3, pp. 183-193,409 (Sept. 1999)
  9. S. Mizuno, M. Okada and J. Toriwaki: "Virtual Sculpting and Virtual Woodcut Printing", Visual Computer: Int'l J. of Computer Graphics, Vol. 14, No. 2, pp. 39-51 (1998-6)

Web サイトの引用

一般論

参考文献としてWebサイトを引用することが多くなってきたように思う. しかし,アクセッシブルな文献を引用するという原則を考えると, Webサイトの引用は避けなくてはならない. Webなんて誰でも見れるのになぜ?という疑問は簡単に覆すことができる.

「URLで示されたWebサイトが常に一義的に閲覧可能ではない!」

  • URLは変更される可能性がある.
  • 内容も変更される可能性がある.
  • そのサイトが閉鎖される可能性がある.
  • ページという概念が希薄である.
  • 文責が明らかでない.
ということが主たる理由である. ISBN/ISSN が付与された書籍は,然るべき図書館に行き,然るべき手続きを経ればアクセス可能である. インターネットの普及に伴い,検索サイトで検索してそのままWebページを参考文献として引用する, ということが簡単にできる御時世である. しかし,そのサイトの内容が書籍になっていないか,論文になっていないか, などを入念にチェックすることは著者の義務なのである. 参考文献とするに足りる多くのWebサイトの内容は,書籍と雑誌で事足りる!! あらゆる努力を費やして,それでもWebしか無い場合のみ参考文献として引用することが許される, と思われたい.

問題なく引用可能

電子出版などで,Web経由でアクセスする論文誌 (芸術科学会論文誌など) もあるが, この場合はURLではなく,通常通りに引用しても全く問題ない. これは,紙媒体でなくても不変・普遍の論文誌として,発行後の改編が行われない,という紳士協定があるためである.

例)

  1. 前野輝, 岡田稔, 鳥脇純一郎: ``直観的自由曲面変形方式に基づく会話型モデリングシステムの構成法'', 芸術科学会論文誌, Vol. 3, No. 2, pp. 168-177 (2004-6)
このように電子出版のスタイルをとる論文誌は増えてきた.

Wikipediaの利用

Wikipedia,これほど威力のある,というか便利なものはない,ということは本文筆者も認める. しかし,実は Wikipedia にはその内容の信憑性の担保が甚だ欠如しており,その引用には問題が山積されている.
  • 誰でも匿名で編集できる.文責の所在がない.
  • 誰もその内容に責任を持っていない.Wikipedia 自身もその記事の編集者も.
  • 改変が可能である.それが悪意のあるものでさえ.
  • 記事内容が普遍ではありえない.著者か引用した際と同一の記事を読者が閲覧できる保証がない.
  • Wikipedia のシステムの編集方針第一義が形式的な継承主義であり,事実・真実を伝えることではない.
ということがその主たる理由である.

Wikipedia の記事を根拠に論旨展開することは禁止する

通常の文脈では Wikipedia を参考文献として引用することはありえない. 「通常の文脈」とは,Wikipedia そのものを研究対象としたりする場合 (社会科学系ではありそう) などは通常ではない,ということである. ここでは Wikipedia を例として挙げたが,類似サイトでも同様である.

研究遂行上、Wikipedia の「利用」を禁止する,と言っているのではない. 上で述べたように利便性は本文筆者も認めている. 例えば,まずは調査の入り口として Wikipedia を利用し,そこからアイディアを練る, 参考文献とするのに相応しいソースを探す,といった利用方法であれば全く問題ない.

学生の講義レポートで Wikipedia の文章を丸写ししたものを経験したことがあるが,もちろん失格とした. 私のところに Wikipedia を参考文献としてあげた論文が査読に回ってきたら容赦なく不採録にするだろう!

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