科学技術論文の書き方
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論文の構成と章建て

「謝辞」の書き方

謝辞の意義

謝辞は単にお礼を述べる場,ではない. 著者となることはその研究成果の「創出者」であることを公にする唯一の手段である. しかし,その研究成果の創出はその著者だけによったのだろうか. 創出者とまでは言えなくとも,不可欠であった協力者はいないだろうか. その協力者の名前を明示することはその研究成果の出自を明らかにする手段である. また会社・組織等によっては研究費支出,貴重な資料を拠出する,なんらかの協力をするための担保ともなる. 支出・拠出した側にとれば論文の謝辞にしかその証拠がないということである. 謝辞にも書かれていなければ支出報告書に書けない. 最近は雑誌論文でもこの謝辞の存在意義を勘違いしたものが目立つ. 研究の円滑な遂行ということを考えてきちんと謝辞を書くことが必要である.

謝辞の基本的な書き方

謝辞は自然科学の学術論文のなかで,主観を書いて良い唯一の場所, といって良いであろう. ただ,冗長であってはならず,簡潔に書かなくてはならない. 査読の際にはこの謝辞欄は伏せられて査読者に依頼されるのが普通である. ときどき,査読者への謝辞を見かけるが,これは原則として必要ない. 査読者のコメントが研究を大幅に進捗させた,とかのときぐらいだろうが, 滅多にあることではない.

研究プロジェクトは単独ではなく,多くの人たちによって推進されているだろう. その全員を共著者にする必要があるかどうかの決め手となる普遍的基準は残念ながら無い. ファジィに表現することが許されるのであれば, その論文の本質部分において顕著な功績があったら連名にすべきであり, それほどでない,ということであれば謝辞となるであろう. 分かりやすく言えば,アルゴリズムを考案することは学術上の貢献であるが, それを実装・コーディングしただけの場合はそうではないし,指導教員のいうままに学生が実験したのであればその学生の学術上の寄与はゼロである. 実装・実験した人間ではなく,アイディアの発案者にその学術的功績の本質がある. この点で,多くの卒業研究,修士研究,場合によっては博士研究にもこの疑念があることは極めて遺憾であるとともに,一部の学生が完全に勘違いしていることも残念である. 現実的にはどの程度が連名で,どの程度が謝辞かはキミではなくキミのボスが決めることであろう. 当然ながら,卒業論文・修士論文・博士論文は単一著者である.

順番

項目の順番は,もちろんその研究に対する学術貢献度の高い順である. 一般的には次のようになる.
  1. (学位論文であれば) 主査 (指導教官)
  2. (学位論文であれば) 副査 (副指導教官)
  3. 連名にしていない共同研究者
  4. 共同研究者とは言えないが助言を頂いたり,討論した人
  5. 資料・試料等の提供者
同じ項目で複数の人がいる場合は,組織的に遠い人を先に書くこと. もちろん同一組織の場合はエライ人を先に書く.

  • 例) 他学科専攻の先生 > 同一学科専攻の先生
  • 例) 他大学,他企業の人 > 同一大学・企業の人
 

研究奨学金等の記載

奨学金,研究費は謝辞記載が義務付けられていることがあるので要注意である.

科研費使用ルールより抜粋転載.

研究成果を発表した場合は、科研費により得た研究成果であることを表示してください。

・Acknowlegment(謝辞)の表示例は、次のとおりです。

(和文) 本研究は科研費(8桁の課題番号)の助成を受けたものである。
(英文) This work was supported by KAKENHI(8桁の課題番号).

(原文ママ.英文のカッコもピリオドも全角...これだから役人は...)

基本表現

謝辞の基本的表現は以下の通りである.

和文の例)

  • 感謝する.深謝する.
  • 感謝の意を表する.深謝の意を表する.謝意を表する.

英文の例)

  • The author(s) thank ... for his (their) ...
  • Our (My) sincere thanks to ... for his (their) ...
  • The author(s) would like to thank ...
  • The author(s) sincerely thank ...
謝辞の項でも,敬体,敬語は不要であり,常体 (である調),普通語で書くこと. である調だから丁寧ではない,ですます調で書いた方が良い,というのは間違いである. その研究への学術的貢献を事実としてきちんと列挙することが研究者としての謝意の正しい表明方法なのである.

敬称は基本的に不要である. 可能な限り,所属も併記し,肩書きがある場合はそれに従う. うろ覚えで書くのではなく,名刺等で確認してきちんと正式名称で書くこと. よく間違っている (名前でさえ!) ものを見かけるが極めて失礼なことであり,謝意が台無しである. 会社名を間違えたら次年度の協力は無いと思え!

和文の例)

  • × ***様
  • ◯ ***氏 (特に肩書きがない場合)
  • ◯ ***株式会社***部研究員***氏
  • ◯ ***株式会社***部研究員***博士 (博士学位所有者の場合)
  • △ ***先生 (教員の場合)
  • ◯ ***大学***学部***学科教授***先生
  • ◯ ***大学***学部***学科研究員***博士 (教員でない場合等)
和文雑誌において日本人名および漢字圏人名はフルネームとすること. 中国人名,韓国人名で漢字が日本語にない場合は本人に使用代替文字を確認すること. 日本人であっても特に気を付けたいのが異字体である. 例えば長尾眞(ヒではなくナベブタ)先生を「長尾真」と紹介している媒体をよく見かける. ご本人は快く許容しているのであろうが,やはり正式名で書きたい. 女性で旧姓併記の場合もそれに従うこと.

英文の例)

  • Mr. *** from ***
  • Dr. *** from ***
  • prof. *** from the University of ***
  • professors *** and *** from ...
英文論文においては人名は [イニシャル+family name] とすること.

実例

雑誌論文の場合

雑誌論文では多くても2〜3行で簡潔に書く. 学術的な協力者にとどめ,家族に対する謝辞は禁止.
  • ◯ 資料を提供して頂いた XX 大学YY学部教授 ZZ 先生に感謝する.
  • ◯ 実験に協力頂いた◯●氏に感謝する.
  • ◯ 本研究の一部は科学研究費 (基盤研究 (B) No. xxxxxxxx) によった.
謝辞が長くならないようにする工夫:
  • 協力者の所属の部署名等は省き,大学教員の所属は大学名,企業研究者の場合は企業名のみとする. 所属はコンセンサスのある略称で可.(名大, NTT, 産総研 etc.)
  • 科学研究費補助金は「科研費」と省略する.基盤研究 (B)は「基盤 (B)」など,場合によっては種目は省略して良い.
雑誌論文の場合の具体例:
謝辞 実験に協力頂いた aa 大学 yy 氏,ご討論頂いた bb 大学教授 zz 先生に感謝する. 本研究の一部は日本学術振興会科学研究費基盤研究 (B) No. xxxxxxxx によった.
Acknowledgment   The authors thank Prof. M. Okada from the Univeristy of XXX for his valuable comments. A part of this research was supported by Grants-in-Aid for Scientific Research, MEXT (No. xxxxxxxx).

学位論文の場合

卒論・修論・博論では謝辞に1ページくらい割いてもよい. 博士論文の場合は主査,副査, 指導教官 (小講座の場合は教授・准教授・講師・助教・助手等),そして研究を手伝ってくれたり, 討論で研究をブラシアップしてくれた研究室の先輩,同僚,後輩. また研究室外,学外との共同研究の場合でお世話になった場合はその担当者. そして場合によっては家族等.
  • △ 本研究にあたり直接の御指導を頂いたX大学Y学部Z学科A教授に深謝する.
    (実は,このスタイルは肩書きによっては一貫性破綻・矛盾する)
    → ◯ 本研究にあたり直接の御指導を戴いたX大学Y学部Z学科教授・A先生に深謝する.
  • ◯ 本研究第 n 章の実験で資料を提供して戴くとともに有益なご助言を戴いた株式会社 cc 研究部 dd 研究員 ee 氏に感謝の意を表する.
学位論文の場合の具体例:
謝辞
本論文は筆者が〇〇大学大学院△研究科◇専攻博士後期課程に在籍中の研究成果をまとめたものである. 同専攻教授 aa 先生には指導教官として本研究の実施の機会を与えて戴き,その遂行にあたって終始,ご指導を戴いた.ここに深謝の意を表する. 同専攻教授 bb 先生,並びに,同専攻准教授 cc 先生には副査としてご助言を戴くとともに本論文の細部にわたりご指導を戴いた.ここに深謝の意を表する. 本研究の第 4 章の実験では株式会社〇〇・ △研究所主任研究員 dd 博士に資料を提供して戴くとともに有益なご助言を戴いた. ここに同氏に対して感謝の意を表する. 本専攻 ff 研究室の各位には研究遂行にあたり日頃より有益なご討論ご助言を戴いた.ここに感謝の意を表する.
本研究の一部は日本学術振興会科学研究費 (特別研究員 No. xxxxxxxx) によった.
学位論文ではページ数に限りがあるということは恐らくはないので所属等は省略しないで正式なものを書くこと.

感謝の程度

謝意の程度の表現に差をつけたい場合の指針(絶対的ではない).

  • 深謝 > 感謝
  • 深謝の意 > 感謝の意 > 謝意

頂く vs 戴く

悩むところだろう. ひところは筆者も相当悩んだ. おそらくは現代日本語では実効的差異はない. いろいろな考え方があるので参考程度に. 「いただく」とカナ表記する,という流儀もある.

漢字の分類上の差異

  • 頂: 常用漢字,教育漢字 (小学校6年生)
  • 戴: 人名用漢字,(旧)常用漢字外,新常用漢字(2010年)

文法上の差異

漢語林では、
  • 頂く: 「貰う」の謙譲語
  • 戴く: 「貰う」の敬語
と書かれている.この意味では実際上の違いはない.

字義の差異

このような同音類義語の区別を考えるには,その漢字の意味を考えるのも一案である.
  • 頂く: 頭の上 (これが頂の源義) に手を差し出して,「モノ」を受け取ること.
  • 戴く: 載せること.代表例は「戴冠式」「戴帽式」.冠・帽を貰う式ではなく,「載せて貰う」式,地位を授与される式.転じて「動作」をして貰うこと,「モノ」ではないものを貰うこと.
この意味では次のような使い分けとなるかも知れない.
  • 資料を提供して戴いた,討論戴いた,
  • 資料を頂いた,

変な日本語 at 謝辞

  • × 〜は〇〇して頂いた.
      (〜は主語なの? それで「頂いた」で結ぶ?頂いたのは自分でしょ!)
      → ◯ 〜には〇〇して頂いた.
  • × 〜は〇〇してくれた.
      (主語は自分にする.それとせめて丁寧語を使おうよ.でも主語を自分にしたら謙譲語で)
      → ◯ 〜には〇〇して頂いた.
  • × 〜に感謝を表する.
      (感謝って表することはできないなぁ...意を表すことは可能でも...)
      → ◯ 感謝の意を表する.謝意を表する.

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