科学技術論文の書き方
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[ ]b Coffee Break

言葉のインフレ

一度嘘をつくと,矛盾が生じないように重ねて嘘をつく,ということがある. これと心理は似ているんだろうけど,一度,言葉の価値が低下してしまう,言葉の価値を下げてしまうと, 他の局面でも言葉の価値が下がってしまう,下げないといられなくなってしまうのだろうか. ま,パソコンとか携帯電話なんて広告・キャッチコピーが命だろうから営業戦略としては正しいんだろうけど. こういうのを書き手と読み手の感性の「乖離」というんだろうね. 技術者・研究者としてはこのような「言乍其欠」(四字熟語: ごんさきけつ) まがい,いや,そこまで行かなくとも「言夸弓長」(四字熟語: ごんこきゅうちょう) された表現を学術論文で使用してはいけない.

なお,特定のメーカーを攻撃しているのではない. わざわざ「世界初」と自分で言っているから敬意を表して代表として登場させてあげたまでであり,たまたま二件ともそうなっただけである.

ラップクラッシャーPC

これが「ラップトップ」だそうだ. ラップトップというからには,膝の上に置いてラクラク仕事ができるんだろうな. 4kgってどんだけ...

1985年発表 Toshiba T1100

サイズ 310(W)×300(D)×67(H),重量約 4kg.

東芝サイト

公式キャッチコピー「『だれでも、いつでも、どこでも使える』ノートPCの開発へ,1985年には世界初のラップトップPC『T1100』を発表。」

アームクラッシャーPC

これが「ノート」だそうだ. ノートというからには,脇とかじゃなくて片手でラクラク持てるんだろうな. 厚さ4.4cmの2.7kgって辞書並だぞ.広辞苑でさえ 2.8kg なのに. 本来の A4 - ISO 216 用紙サイズは 210mm×297mmなので,「A4サイズ」とは言わず「A4ファイルサイズ」と書いているところなど消費者の勘違いを誘引している.

1989年発表 Toshiba DynaBook J-3100SS

サイズ 310(W)×254(D) ×44(H),2.7kg.

東芝サイト

公式キャッチコピー「みんなこれを目指してきた!世界初のノートPC」

リストクラッシャーPC

パームトップPCというのがある. PDA という新種と実態が拮抗してきたため,パームトップという言葉は死語となりつつある.

ボディクラッシャーPC...果ては...

ウェアラブルコンピュータというのが研究段階では存在する. あれはまるでロボット/サイボーグだ. シャツのボタンにまでIPアドレスが付与できるご時世ではあるが,現実と夢の乖離はますます激しくなる. ジュール・ベルヌが1865年に “De la Terre à la Lune: Trajet direct en 97 heures 20 minutes (From the Earth to the Moon; 月世界旅行)” で描いた月ロケットはほぼ1世紀の時を隔てて1969年にアポロ11号によって現実のものとなった. 1865年当時はなにをバカなことを書いているんだ,と言われたことだろう.

(しかし本書の挿絵のなんとリアルなことか...100年後の月ロケットの姿そのものだ...)

理工学が目指すゴールのひとつである鉄腕アトムや鉄人28号でも同様である. 本文筆者も鉄腕アトムの脳・神経系を司る情報工学を専攻し,視覚を司る Pattern Recognition, Computer Vision を専門分野とした. 夢を追ってはいけないと言っているのではない. このような技術革新は夢ではあるし,本文筆者もそのような夢を追うために技術者/研究者となった.

  し・か・し...

夢を語ることはベルヌや手塚治虫先生,横山光輝先生などその道のプロに任せておけば良い. 夢を追うことは良いが,論文で夢を語ってはいけない. 技術者・研究者はその夢を現実のものにすることが仕事である. 論文は夢を現実にする設計図であり, 正確に書かれた学術論文は科学の永遠の財産である.

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